原発避難者の帰還を実現するための自治体政策に関する研究—コミュニティ形成に必要な要素の視点から—
タイトルは私の大学院修士論文のテーマである。中間発表でひとまず途中までは合格をいただいた。見識を持った他者に評価していただけることに対して率直に嬉しい。
「平成23年3月11日に発生した東日本大震災から5年半を経て,原発事故全町民避難中の福島県大熊町は,平成30年度から除染が進む一部地域に帰還が始まる.これらの帰還希望者が実際に帰還を実現するためには,自治体としての受入体制の確立が求められている.しかしながら,現在の自治体計画は圧倒的多数の帰還非希望者への対応策や廃炉作業・除染作業に関わる新規住民対策等が中心となっており,少数の帰還希望者の意向把握や必要施策への検討が不十分である.一方,先行浪江町では,平成29年からの帰還に向けて,住民の意向を分類し、対象毎対応策が示されている.
 研究者らによる過去の調査によると,帰還希望者は「規模が小さくても助け合って暮らすことのできるコミュニティ」を希望しており,彼等の具体的な要望を明らかにし,それによって帰還を実現する具体的な政策を検討することが不可欠である.・・・・」

中間発表とは、審査する複数の先生らの前で発表して、いくつかの質問をいただきそれに答えねばならない。その質問の一つに、「帰還しない方が良いのではという考えがあるのではないか?」との問いをいただいた。確かに過去の研究論文をいろいろ調べる中では、帰還を喜ばしいことという立ち位置でなされた研究論文はないように見受けられる。だから余計、帰還希望者の具体的希望が掬い取れていないのだと思う。外に暮らす我々が、帰還の是非を論じるのは勝手であるが、5年前に有無を言わさず見知らぬ土地に連れていかれて、以降一貫して元の町に戻りたいと願い続けている人が、住民の1-2割いらっしゃることが現実なのだ。除染作業によって放射線量は関東地域と変わらず、農産物の試験栽培も継続されている。高齢者中心に帰還する全く新しい町ができることになるのだ。「規模が小さくても助け合って暮らすことのできるコミュニティ」を自力でやって見せつけて、全国各地のコミュニティの在り方に影響を及ぼしていかれることを私は大いに期待している。

閉じたままの大熊町役場。ここは帰還予定区域に入っていない。

閉じたままの大熊町役場。ここは帰還予定区域に入っていない。

町の模型を見ながら、職員から説明を受ける住民

町の模型を見ながら、職員から説明を受ける住民