平成28年9月4日、鎌ケ谷市中央公民館にて「福島の今を語る講演交流会」をNPOの責任者として主催した。講師で来ていただいた吾妻さんは、福島市内にて8ヘクタールの観光の農園を営んでいる。主催団体であるNPO法人とんぼエコオフィスは震災後から継続して、福島から子供たちを受け入れる保養事業を行ってきたことで、福島県の市民団体とのお付き合いが深まり、そのつながりで県が呼びかけている今回の企画を主催するに至ったのだ。
本来は、このお話を聞きたい方々もいらっしゃるはずであるが、個別団体が持つネットワークの中では、周知させることに大きな限界があるのだ。それでも、多くの方々に直接農家の生の声を聴いていただくことができ、私としても、世の中に情報として流れることのない心情をうかがうことができ、貴重な時間をいただいた。
何度測っても果実に放射線の影響は検出されない。検出されない果実しか販売できない。福島県の特産品である干し柿は、生柿を乾燥させてつくるものであるため、重量当たりの検出値であらわされるとどうしても水分が減る分、重量当たりで検出値を超えるケースがある。よって、干し柿生産はまだできないとのこと。
一番印象深かったことは、吾妻さんら観光農園事業者は、通常の生産事業者と違い、いち早く、畑の除染や枝を高圧洗浄させる除染に取り組んだという。土を5センチはぎ取れば細かな根を張る土壌がなくなり、樹木が弱る。枝を高圧洗浄すれば枝が弱る。果実に放射線の影響は出ないとわかっていても、それでも周囲や消費者の納得のために、除染を真冬の寒さの中行ってきたという。味の良い果物は、健康な樹木からしか生まれないという。除染で失われた自然の力を補うように、たくさんの有機物をその後土壌に戻し続けているという。
一方で、原発事故後の変化として、若者層が農業を志して福島県内に移住するような動きが出ており、日本中の農業が抱える高齢化や廃業の流れとは違った動きが見受けられるようだ。小さな兆しかもしれないが、人々の心の変化を未来への可能性として信じていきたい思いが強まった。